5.単音音階練習
音階練習はいったい何の為にするのか
第一義的にはロングトーンも含めて美しい音感を磨く為である。謂わば耳の鍛錬の実験工房である。実際の演奏での音程はその演奏家の音楽観といっても大げさではないと思う。いかにビブラートが美しくても、いかに研究し尽くされたフレージングをしても、はたまた崇高な音楽観をもって演奏しても悪い音程はなんら訓練を積んでいな耳にも簡単に聞き取られる。 次にはもちろん指のトレーニングという側面は大きい。すべての音が的確なアーティキュレーションを伴っていなくてはならない。 しかし速さを求めるために音程がおろそかになってはいえない。 耳は常に第一である。これは自らの経験と自戒もこめての言葉である。
基本的指使い
音階練習の原則はロングトーンと全く同じであるがさまざまな速さ、さまざまな弓の使い方で行う。ロングトーン練習をしっかり行っていればすぐにある程度のスピードで正確に弾けるようになってくるはずである。音階練習は特定の調に偏らず全ての調を満遍なく行うことが非常に大事だ。 僕は普段は半音階で調性を変えて行くやり方で行っているが、他にも五度圏でめぐる方法もある。
音階には様々な指使いがあり、これが唯一と言ったものはない。 僕の指使いは長調の場合シャープとフラット4つ以上の調からは開放弦がなくなるので指使いは共通になる。他の調でも開放弦を使わなければこれと同じ指使いができる。
3オクターブ目からは主音が常に第3指になるように構成されている理由は3を出来るだけ多く使う為である。 第3指はロングトーンの項でも書いたように一番覚えが悪い割には頻繁に駆り出される指であるが、普通の音階では使われる頻度が少ないのである。 これについてはまた別の項でも述べる。
短調では例えばEs moll などの様に導音に臨時記号のDナチュラルなどが出てくるのでもうちょっと複雑である。短調音階は和声的と旋律的の2種類あるが和声的音階は増2度を含むので必ず行うべきである。
またFeuillardの ≪ Exsercises jounaileres ≫ で紹介されている全調共通の運指法も練習しておくと良い。(譜例)
この方法は最初の第3音に第1指を持ってきてその後は各ポジション3音ずつ弾いて次のポジションへ移る。下降時も同じ指使いである。長短どちらの調にも共通である。僕自身はこの指使いを曲の中では使うことはないが、第3指を多く使うと言う点で効果的である。
ひとくちに24の調性と言うが、CisとDes, Fis-Gesなどのエンハーモニック調も含むので譜面上ではもっと多いことになる。それぞれのエンハーモニック調での運指は同じであるが、記譜上の観点からこれらの調はそれぞれ練習したほうが良い。 Gis
moll とAs moll、Ais mollとB moll, 等あまり見かけない調性の記譜法に慣れるためである。

b-mollは比較的多く見かけるが下のAis mollは結構読みにくい。
このような調はソロ曲ではあまり見かけないが、オーケストラパートや室内楽曲などでは臨時記号などで出てくることが意外と多い。 (ヤナチェク、ムソルグスキーなどはこういった読みにくい音をエンハーモニックに置き換えないで書く傾向がある。 ヴェルディも結構多いしチェロではないがシューベルトもその傾向ある。) こういう記譜法に慣れておくと、音そのものより譜面の見かけ上の複雑さで苦労したり、読み間違ったりすることを避けることが出来る。
音階練習の三つの方法
さて、さっそく音階練習に取り掛かろう。
第一の方法は下の譜面のように一弓4音程度でかなりゆっくりなテンポで始める。
単純にテンポを2倍づつ早くして8分音符、16分、32分、のように行う。この場合弓の長さは一定で常に一弓あたり4分音符4拍分をキープすること。
この方法は単純で良いのだが、難点は常に2拍子系である事と、特定の速さでしか弾かないことだ。
それを補う方法として次のようなやり方も試してもらいたい。 (Es dur の指使いはちょっと特殊なのでついでに掲載しておく)


4分音符の次から4分三連符、8分、8分5連符(2分音符あたり5音)8分3連(または6連符)と言う具合にテンポは一定にして音価を縮めてゆく。 この方法はリズム感を同時に養うので非常に良い。メトロノームをお忘れなく。 少し上級者向きだろう。
第3の方法はたとえば16分音符=44くらいから初めてメトロノームで確認しながら徐々にスピードを上げる方法。16文音符=44、64、72、96、120〜160。さらに4分音符=40(16分=160)〜144位までスピードを上げてゆく。こちらは弓の使い方がかなり難しいので初心者にはお勧めできない。ボーイングは音のスピードに合わせて適宜変えなければいけないが、その都度一弓あたり何音、と言う原則を設けておこなう。
|